防災備蓄の保管場所設計|新築時に仕込むべきポイント|マイノラ
近年、地震や台風、豪雨による被害が各地で続き、防災備蓄を意識する家庭が増えています。とはいえ、「何を・どこに・どれだけ置けばいいのか」「電気や水道はいつ戻るのか」「赤ちゃんやお年寄りがいる家はどうすれば」と、悩みは尽きないと思います。
この記事は、過去の災害で実際にライフラインの復旧にかかった日数などのデータをもとに、何を・どれだけ備えればよいかを整理し、要配慮者(赤ちゃん・高齢者)への配慮、停電に備える電源の選び方(太陽光・蓄電池・ポータブル電源・車からの給電)、そして無理なく続けるローリングストックや新築時の仕込みまで、これ一本で備えが完結する「完全版」を目指してまとめました。参考までに、我が家の実例も交えながら解説します。
~この記事の内容~
ライフラインは「すぐには戻らない」
備蓄の量を決めるには、「電気・水道・ガスが、どのくらいで復旧するのか」を知っておくことが出発点になります。一般に、復旧の早さは電気 → 水道 → ガスの順とされ、内閣府などの想定では、大規模災害時の復旧目標は電気が約6日、上水道が約30日、ガスが約55日とされています。実際の過去の災害を見ても、その傾向ははっきりしています。
- 東日本大震災(2011年):電気は比較的早く復旧した一方、都市ガスは全面復旧まで約2か月、上水道も95%程度の復旧は約4か月後でした。
- 熊本地震(2016年):電気は約4日でおおむね復旧したものの、都市ガスの全面復旧には約2週間を要しました。
- 能登半島地震(2024年):地域によっては断水が半年を過ぎても解消しないなど、水道の復旧が大きく長期化しました。
ここから分かるのは、電気は数日で戻ることが多いが、水道やガスは数週間、最悪の場合は数か月かかることもあるということです。つまり、よく言われる「3日分」はあくまで最低ライン。とくに水とトイレは、長期化に備えて1週間分以上を見ておくのが安心です。
何を・どれだけ|4人家族の必要量【早見表】
必要量は「1人あたりの目安 × 人数 × 日数」で計算できます。代表的な品目について、4人家族を例に、3日分・1週間分を一覧にしました(数値は農林水産省・経済産業省などの目安をもとにしています)。
水は「1人1日3L」が目安で、これは飲料水だけでなく調理に使う分も含みます。4人家族なら、3日分で36L、1週間分なら84Lになります。2Lのペットボトルに換算すると、1週間分で42本ほど。けっこうな量に感じますが、後述のローリングストックなら、普段の買い物に少し足すだけで無理なくためられます。
食料は、レトルトご飯やパックのおかず、缶詰、乾麺、栄養補助食品などを組み合わせます。火や水をあまり使わずに食べられるものを中心にしておくと、ライフラインが止まっても安心です。なお、手洗いやトイレ、洗い物に使う生活用水は、飲料水とは別に1人1日10〜20Lほど必要とされます。お風呂の残り湯をためておく、雨水を利用するといった工夫で補えます。
在宅避難で最優先は「トイレ」|携帯トイレの備え
意外に思われるかもしれませんが、在宅避難で心配なことの第1位は、毎回の調査で「トイレが使えないこと」です。断水すると水洗トイレは流せなくなり、排泄は我慢できないため、もっとも切実な問題になります。
排泄物を放置すると、細菌による感染症や悪臭、害虫の発生につながります。さらに、トイレを我慢して水分や食事を控えると、脱水やエコノミークラス症候群、栄養状態の悪化など、命に関わる健康被害を招くおそれもあります。だからこそ、携帯トイレ(簡易トイレ)は、水や食料と並ぶ最重要の備蓄と考えてください。
備える量は、成人の平均排泄回数である1人1日5回が基準です。経済産業省は1週間分(1人あたり35回分)を目安として推奨しています。4人家族なら、1週間で140回分。あわせて、凝固剤・防臭袋・トイレットペーパー・ウェットティッシュ・ゴミ袋・使い捨て手袋もセットでそろえておくと安心です。水道の復旧が長引いた能登半島地震の例を見ても、トイレは多めに備えておいて損はありません。
調理と灯り|カセットコンロ・あかり・情報
電気やガスが止まっても、温かい食事がとれると、心身ともにずいぶん落ち着きます。その要になるのがカセットコンロとボンベです。東京ガスの調査では、4人家族が1週間の食事をまかなうのに必要なカセットボンベは約5本とされ、調理に余裕を持たせるなら1人1週間あたり約6本を目安にしておくと安心です。ボンベは高温になる場所を避けて保管し、使用期限(おおむね製造から7年程度)にも気をつけましょう。
灯りと情報の備えも欠かせません。次のようなものをそろえておくと、停電の夜も落ち着いて過ごせます。
- あかり:懐中電灯に加えて、両手が空くヘッドライトや、部屋全体を照らせるランタンがあると便利です。電池式とあわせて、乾電池の予備も多めに。
- 情報:停電や通信障害に備えて、電池式・手回し充電のラジオを。スマホの充電もできるタイプだと安心です。
- モバイルバッテリー:スマホは情報収集・安否確認の生命線。満充電のモバイルバッテリーを複数用意し、普段から充電を保っておきます。
電源の確保|太陽光・蓄電池・ポータブル電源・クルマ
停電は、半日ほどで復旧することもあれば、大規模災害では1週間を超えることもあります。電源をどこまで確保するかは、家庭の事情に合わせて選びます。代表的な選択肢を、特徴とあわせて整理します。
太陽光発電(自立運転)|昼間の電気を確保
太陽光発電には、停電時に使える「自立運転」モードがあり、晴れていれば日中、専用コンセントから最大1500Wほどの電気を使えます。スマホの充電や、小型の冷蔵庫、扇風機などを動かすには十分です。参考までに、我が家も太陽光を載せていて、停電しても昼間は電気が使えるのは大きな安心材料です。ただし、蓄電池がない場合は夜間や発電しない時間帯は使えない点に注意が必要です。
蓄電池|夜間も電気を使いたいなら
蓄電池があれば、昼に太陽光でためた電気を夜にも使えます。停電が長引いても、冷蔵庫や照明、スマホの充電などをまかないやすくなり、防災面の安心感は格段に上がります。一方で本体価格が高く、容量(kWh)によって使える時間が決まります。費用と効果のバランスは家庭によるので、蓄電池は元が取れるかもあわせて検討してみてください。正直なところ、我が家は売電型で蓄電池を入れていないため、夜の停電には弱く、「あればよかったかも」と思う場面でもあります。
ポータブル電源|手軽に始められる備え
工事不要で手軽に備えられるのがポータブル電源です。容量の目安は用途しだいで、スマホ・照明・小型家電が中心なら500Wh前後から、冷蔵庫まで含めて最低限まかなうなら2,000〜3,000Whクラスが目安とされます。スマホは約10W、家庭用冷蔵庫は約200Wほどなので、何をどれだけ動かしたいかで必要な容量を逆算するとよいでしょう。太陽光パネルとセットにすれば、停電が長引いても充電しながら使えます。
車からの給電・V2H|「動く蓄電池」を活かす
見落とされがちですが、車も大きな電源になります。電気自動車(EV)は数十kWhの電池を積んでおり、これは一般家庭の数日分の電力に相当します。専用のV2H機器を使えば、車にためた電気を家全体に供給でき、停電時の備えとして非常に心強い存在です。ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車でも、1500Wの給電コンセントを備えた車種なら、スマホや冷蔵庫、電気ポットなどを動かせます。
参考までに、我が家は新築時に駐車スペースへEV用の200Vコンセントを仕込んでおり、将来V2Hを導入すれば、車を「動く蓄電池」として防災に活かせる余地を残しています。EV・V2Hの活用はV2H・EV充電を新築で仕込むでも詳しく触れています。
赤ちゃんがいる家庭の備え
赤ちゃんは、大人用の備蓄では対応できません。とくにミルクとオムツは、災害後に品薄・欠品になりやすく、自治体の支援もすぐには届かないことがあるため、家庭での備えが命綱になります。
- 液体ミルク:お湯や哺乳びんの消毒が不要で、そのまま飲ませられるため、ライフラインが止まる災害直後にとても有用です。1週間分を目安に備えておくと安心です。使い捨ての乳首とセットにしておきましょう。
- 粉ミルク・オムツ:災害後は1週間以上、品薄が続くことがあります。普段から1か月分ほどを買い置きし、使いながら補充するのがおすすめです。
- 衛生用品:おしりふき、除菌シート、ミルク用の軟水、(粉ミルクを使う場合の)加熱袋など。
- その他:母子手帳のコピー、子どものお気に入りのおもちゃ(不安をやわらげます)、月齢に合った離乳食やおやつ。
高齢者・要配慮者がいる家庭の備え
持病のある方や高齢の家族がいる家庭では、「薬」と「トイレ」への配慮がとくに大切です。命や健康に直結するので、正確に備えておきましょう。
- 常用薬とお薬手帳:持病の薬は最低でも3〜7日分を手元に。お薬手帳(または写真)、保険証のコピー、かかりつけの病院・薬局の連絡先メモも一緒に。薬には使用期限があるので、新しい処方を受けたら備蓄分と入れ替えて、常に新しい状態を保ちます。
- トイレ・衛生:高齢の方はトイレの回数が多めなので、簡易トイレは多めに。普段オムツを使わない方も、体調を崩したときに備えて大人用オムツを数枚入れておくと安心です。
- 食事の配慮:かたいものが食べにくい方には、おかゆやレトルトの介護食、とろみ剤などを。入れ歯の洗浄用品も忘れずに。
- 器具・電池:補聴器の予備電池、めがね、杖など、その方に欠かせないものを。在宅で医療機器(在宅酸素など)を使う場合は、停電時の対応をかかりつけ医に確認しておきます。
ローリングストックで「無理なく」続ける
備蓄は「特別なもの」と身構えると続きません。おすすめは、普段使いの食品や日用品を少し多めに買い、古いものから使って、使った分を買い足す「ローリングストック」です。常に新しいものが循環するので、賞味期限切れの無駄が出にくく、いざというときも食べ慣れた味で安心できます。
- 水・レトルト・缶詰・乾麺などは、普段から少し多めにストックする。
- 賞味期限が近づいたものから消費し、消費したら補充する。
- 「災害用」と「普段用」を完全に分けず、ひと続きで管理する。
ローリングストックを回しやすくするには、収納の工夫も効きます。奥行きの浅い棚だと、奥のものが死蔵されにくく、先入れ先出しがしやすくなります。詳しくはパントリーは必要か?もあわせてご覧ください。
保管場所の設計|「3か所分散」が鉄則
備蓄は1か所にまとめず、家のなかの数か所に分散しておくのがおすすめです。1か所が地震で倒れた家具の下敷きになったり、浸水したりしても、別の場所のもので対応できます。新築なら、次の3か所を意識して収納を確保しておくと安心です。
A. パントリー(水・食料の中心)
- 水・非常食を中心に。キッチンの近くで、日常使いと兼ねられます。
- ローリングストックの中心になる場所です。
B. 玄関収納・シューズクローク(持ち出し用)
- すぐ持ち出せる防災リュック、懐中電灯、ヘルメットなど。
- 避難するとき、玄関で手に取れる場所にあると確実です。
C. 押入れ・ウォークインクローゼット(長期保管)
- 簡易トイレ、着替え・タオル、寝具の予備など、かさばるもの。
- 使用頻度の低い長期保管品の置き場所に向きます。
マイホームの収納で後悔しないでも触れたとおり、各部屋に少しずつ分散させるのがポイントです。必要なスペースの目安は、4人家族の3日分で、水・食料・トイレなどを合わせて約0.3畳(およそ0.6㎡)ほど。1週間分まで見込むなら、専用スペースを0.5畳ほど確保しておくと余裕があります。あとから確保しようとすると収納が足りないことが多いので、設計段階で「置く場所」を決めておくのがおすすめです。
新築時に仕込んでおきたい防災設計
備蓄品は後からでもそろえられますが、家の設備や下地は、新築のときでないと仕込みにくいものです。余裕があれば、次のような備えを検討しておくと、災害時の安心感が変わってきます。
- 太陽光発電(自立運転):停電時、晴れていれば昼間の電気を確保できます。
- 蓄電池・V2H対応:夜間や長期停電に備えるなら。EV用コンセントだけでも先に仕込んでおくと、後の選択肢が広がります(後悔しないコンセント計画)。
- 屋外コンセント・立水栓:屋外で電気や水を使えると、災害時の作業や生活に役立ちます。
- 雨水タンク:トイレを流す水や、掃除・庭の水やりなどの生活用水に使えます。
- 家具固定用の下地:壁に下地を入れておくと、後から家具を倒れにくく固定できます。
地震対策|家具の固定で「命とけが」を守る
地震のけがの多くは、倒れた家具や落下物によるものとされます。備蓄と同じくらい大切なのが、家のなかの安全対策です。
- 家具の壁固定:背の高い家具は、壁の下地に固定して転倒を防ぎます。新築時に下地を入れておくと確実です。
- 扉のロック:食器棚などは、揺れで扉が開いて中身が飛び出さないよう、ロックを付けておきます。
- テレビ・家電の転倒防止:固定ベルトや耐震マットで固定します。
- 寝室の配置:寝ている場所の近くに、倒れて下敷きになるような背の高い家具を置かないようにします。
とくに小さな子どもがいる家庭は、安全設計を念入りに。子どものけがを防ぐ家の考え方も応用できます。
水害対策|まずはハザードマップの確認から
近年は豪雨による浸水被害も増えています。水害への備えは、まず自分の土地のリスクを知ることから始まります。自治体のハザードマップで、浸水想定や土砂災害の警戒区域を確認しておきましょう。土地選びの段階で確認できると理想的です(土地選びのポイント)。
- 浸水リスクのある地域では、敷地や1階の床の高さを上げる、止水板を備えるといった対策を検討します。
- 大切な家財や電気設備(分電盤・コンセント位置など)は、できるだけ低い位置に集中させない。
- 万一の浸水に備え、1階に思い出の品や重要書類を置きっぱなしにしない。
- 2階や屋上など、垂直避難できるスペースを確保しておく。
備蓄は「見直し」までがセット
そろえて終わりにせず、定期的に見直すことで、いざというときに使えない、という事態を防げます。次のサイクルを目安に、カレンダーやスマホのリマインダーに登録しておくと忘れません。
- 半年ごと:賞味期限・使用期限のチェック(防災の日や季節の変わり目が目印になります)。
- 年1回:家族構成や子どもの成長に合わせて、内容を見直す。
- 数年ごと:長期保存水・保存食、カセットボンベ、電池などを入れ替える。
防災備蓄の心得3つ
- 完璧を目指さない:まずは3日分から。少しずつ1週間分へ広げていけば十分です。
- 分散して備える:1か所がだめでも、別の場所のもので対応できます。
- 家族で共有・確認する:何がどこにあるか、使い方はどうかを、家族みんなで把握しておきます。年に一度、実際に使ってみる練習もおすすめです。
まとめ|「データに基づく備え」と「続ける仕組み」を
過去の災害を振り返ると、電気は数日で戻ることが多い一方、水道やガスは数週間、ときに数か月かかることもあります。だからこそ、水とトイレは1週間分以上を基本に、食料・カセットボンベ・電源、そして赤ちゃんや高齢の家族がいればその備えまで、家庭に合わせてそろえておくことが大切です。
そして、備蓄はローリングストックで無理なく続け、定期的に見直すこと、新築なら保管スペースと電源・下地を設計段階で仕込んでおくことが、成功の鍵になります。今すぐ完璧にする必要はありません。まずは「置く場所」と「3日分」から。この記事を、ご家庭の備えを一歩進めるきっかけにしていただけたらうれしいです。
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